子安貝化するアメリカドル
仏暦2551年10月31日 金曜日
凄まじい勢いでアメリカ合衆国の”なんちゃってマネー”、つまり実物の経済に裏打ちされていない貨幣、の世界が崩れて行っています。
で、これはどうやら第1段階で、第2段階は所謂実体経済の悪化、第3段階はアメリカ$枢軸体制の破綻となるのでしょう。先般記したように、取り敢えず生じている現象は驚くべきことに、$の日本円以外の貨幣に対する高騰だったりします。第1段階と第2、3段階は別物であると認識しなければなりません。そして、第2、第3段階は次にまた金融崩壊を招きますので、何度かこのハードなスパイラルを回らざるを得ないでしょう。
この過程でアメリカ$の暴落、つまりアメリカ$に対する過剰な信用の崩壊が生じざるを得ないでしょう。アメリカ人がマジメに働いてせっせと借金を返す生活に戻る積もりもなさそうだからです。
その経路はどうなるのでしょうか? 貨幣の歴史は偽札を含めて多様で複雑なのですが、アメリカ$の末期の行方として参考になりそうなのは、子安貝かも知れません。勿論、その他の幾つもの歴史が$と日本の未来を予測させます。
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子安貝または宝貝は既に殷や周において装飾品乃至は貨幣として使われていたようです。カール・ポランニィの研究で名高いようにアフリカでも使われていたし、アラブ地域でも流通していたようです。で、一体この”貨幣”は最後にはどうなったのか、どうもあまりまとまった研究が見当たりません。少なくとも、今日子安貝が貨幣として通用する地域は存在しません。
だが、貨幣としての子安貝の末路は容易に想像することができます。全ての貨幣は最後には激しいインフレによって消滅するもののようだからです。例えばローマの貨幣は悪質な貨幣を鋳造することを繰り返して最後を迎えました。日本の江戸時代にも、銀や金の量を少なくした改鋳が度々行われました。悪貨は良貨を駆逐する、とはこの事であります。子安貝は世界の熱帯から亜熱帯の海にのみ生息しますが、数は豊富です。流通が容易ではなかった時代ならともかく、時代が下るに連れてどんどん運べるようになって行ったでしょう。当然インフレが、つまり貨幣の価値の低下が生じる訳で、そこに欧州による世界制覇に伴ってそれらの通貨が流入し、いつしか最後を迎えたのであろうと思われます。
実際、子安貝の”価格”について件のポランニィの書には、帝国主義時代のアフリカ南西海岸において子安貝1、2個が一握りのその場で食べられる食べ物、要するに現代日本の感覚で言えばハンバーガー一つとか饅頭一つとかで売られていたと言う記載があります。宝飾品として使われていた子安貝が歴史上結構多数ある事からすると、随分な安さ(※貨幣としての)です。例えば、現代において半オンス(〓g)程度の金貨を殊更にペンダントにすることもあるし、その程度の量の黄金を使った装飾品も沢山あります。2008年11月上旬の買い取り価格から見ると、半オンスと言うのは3万円近くになります。だが、百円硬貨を使ったペンダントなんて成立するでしょうか? そう考えると、帝国主義の時代であり次には欧米の貨幣が雪崩れ込んでくるであろう時代の南西アフリカにおける子安貝の価格(※くどいようですが、貨幣としての交換価値と言う事)の低さが伺えます。一つざっと100円とか50円とかと言う感じでしょうか。
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さて、アメリカ$の運命です。今や世界にはアメリカ$が余りにも沢山溢れており、実際に物品サービスの交換の媒介に必要以上どころではない量が存在しています。激しいインフレ状態なのです。アメリカは自国民特に富裕層の贅沢と軍備にふんだんに$を使いまくって来ました。それが、アメリカの財政・貿易・企業・家計の赤字と言う事です。この状態は、大体1960年代から既に始まっており、随分以前からアメリカ$の価値は揺らぎ続けていました。既に1971年にアメリカ$は黄金との関連を自ら断ち切っており、その価格は非常に曖昧な”市場”に委ねられています。それが冒頭に記した$危機でした。若い人にとっては、自分の産まれる以前からアメリカ$と言うのは過剰生産が続いており、インフレが続いていたのであります。
子安貝と同様、過剰に供給されたモノは当然その価格を下落させます。下落させないためには様々な詐欺や暴力すら必要となります。江戸時代の藩札は、藩の弁済能力つまりはお米を供出出来る能力によってその価値が担保されていました。ところが藩札が過剰に生産されるようになるや、要するに武士の武力をちらつかせることで何十年先分迄の借金すら行われ、ようやっと価値を維持し続けました。また、藩の事業を貸主に独占させる事で藩札の価値を維持させたことも広く行われたのでしょう。
方や、アメリカ$は世界中で通用すると言う曖昧な合意によって価値が担保されています。言うことをきかないイケナイ国にはアメリカ軍が差し向けられます。これが、”$が機軸通貨だ”と言う事の一つの側面です。よって、この曖昧な合意なり漠然たる常識が失われ、アメリカ軍が対応能力を失った瞬間、雪崩のようにアメリカ$は価値を失います。
これだけでは不足なので、アメリカは驚くべき方法でこの合意を継続させる手管を使って来ました。同時に、余剰な$をある”領域”に囲い込む事で激しいインフレになる事を防ぎました。それは、
「アメリカ$を”沢山”返してあげると言う約束の債券を乱発する」
と言う方法によって合意を”繰り延べ”し、債券と株の市場に$を集積し続ける事です。まず国債でこれをやりました。このやり方は現在も続いていますが、単純に国債を乱発したのでは流石に”信用”がなくなりました。
そこで、強欲なアメリカ人はもっともらしい奇跡を起こして見せました。所謂ITバブルによってアメリカ企業を所有させる振りをしつつ、株式市場で”アメリカ$を沢山返して上げる”と言う奇跡を演出して見せたのです。クリントン大統領の時代はこれで凌ぎました。
そして、次のブッシュ大統領の時代には住宅でこれをやった訳です。ついでに再び軍事力を派手に振り回してイケナイ国を成敗すると言う事もやりました。石油代金を$ではなくユーロで受けとる事にしたイラクに侵攻し、彼の国を目茶苦茶にしたのです。
だが、アメリカそのものが贅沢三昧を止めない限り、やはり$の価値は長続きしません。
「子安貝を幾ら沢山くれると言っても、その供給量がどんどん増えれば子安貝の値段は限りなく下がるので、沢山くれると言う約束自体が意味がない」
のであります、アタリマエ。子安貝は、安直なセメントや肥料の原料程度には使えるものでしょう。だが、緑色の紙は焚き付け程度にしか使用価値はない。便所紙にすらなりませんな。
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「アメリカ$を”沢山”返してあげると言う約束の債券を乱発する」方法は、別の意味でもお金の貸主を騙すものでした。現在の住宅サブプライム市場の崩壊に伴う返済不能の山と言うのは、
「アメリカとその他の国々」
をきちんと別けて考えると、
「”借りたお金、返せなくなっちゃいました〜”とうそぶいて借金を踏み倒し、世界中の貸主からお金をふんだくった」
と言うことなのですから。
今、アメリカの企業はジェネラルモータースさえ倒れようとしています。GMさえ倒れた場合には、株式会社と言う組織の欺瞞性丸剥き出しで、世界から集めたお金が”なくなっちゃいました〜”と言うことになります。最初から倒産させる積もりで株式と言う紙切れだけを売りまくる行為は日本では法律で様々に規制されています。法律によって、経営者は”働かさせ”られます。だが、もっと上品にもっと大きな嘘をつくと、なかなか逮捕には至りません。
同じような事は、住宅サブプライム問題でもやってくれています。先般ご紹介したトッテン氏が”カリフォルニアあたりのロクに水もなく、山火事であっと言う間に燃えるような住宅”と批判するような住宅にまで高値をつけて、それに対する債券をこま切れにしたものを世界中に売りまくっていたのがサブプライム問題、と言う事です。これも、”やっぱり値段がなくなっちゃいました〜”と空惚けて見せ、”我々もとても困っています”と尤もらしくしかめっ面をして見せている訳です。
そのクセ、ダウは暴落と言っても半分とか10分の1とかになった訳でもなく、相変わらず随分高い水準を保っています。これは、どういう陰の操作が行われているのでしょうか? ぎりぎりまで吊り上げておいてお金を集め、いきなりストンと破産させてみせる。株に集めた世界のお金を、”返せなくなっちゃいました〜”と空惚けるための工作にだけは長けているようです。
ちなみに、アメリカの金持ちにとっては借金を上手い具合に踏み倒せれば、アメリカの庶民がどれほど塗炭の苦しみに塗れようが知ったことではないことを、改めて強調しておきます。つまり、彼ら大金持ちたちはそうするべきだと思えば、アメリカ全体が大不況になっても、自分たちの銭勘定を優先させます。潰すことにした企業の株は、彼らはとっくに売り抜けて、アメリカの年金機構等が後生大事に抱え込んでいるのかも知れません。先般から指摘しているように”我々は一体ではない”のであり、それはアメリカでは日本よりも更に甚だしくそうなのです。
さて、以上のような騙しの方法においては、そもそも安くなって行く子安貝そのものさえ決してお金の貸主には手渡されない事に注意すべきです。
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かくして、
「アメリカ政府は、アメリカ国債そのものを踏み倒そうとしているのではないか」
と世界中の投資家等がかたずを飲んで見守っています。何しろ、つい10年か前にロシアがそれをやっちゃった前歴がありますからね。世界第2位の核大国がそれをやったならば、第1位がやらない筈もありますまい。ちなみに、この踏み倒しをやってくれた際、アメリカのLTCMが破綻し、アジア経済危機が発生した事をお忘れなく。
借金踏み倒しをアメリカが決意した時に、同時に”$が機軸通貨である”世界が終了し、世界中、特に日本に更に強烈な損失が押しつけられ、世界中特に日本は更に恐ろしい不況に陥ります。何しろ、世界が、特に日本が後生大事にため込んだアメリカ国債始めアメリカ$絡みの資産と言う”あった筈のお金”が、なくなっちゃい、一気に資産状況が悪化する訳ですから。正に今起きている事は第1段階に過ぎません。日本程アメリカ$教の敬虔な信仰国はないので、目下日本円は急騰していますが、いざご本尊が倒れた時には凄まじいしっぺ返しが来ることになります。
どうやら踏み倒しの決意はアメリカ共和党ではなく民主党のオバマ氏がやる事になるようです。勿論、アメリカ$がなくなっちゃった〜となったらば一番の被害者は下っぱのアメリカ国民になりますから、あらら、民主党はえんがちょ付けられちゃいます。1929年の世界恐慌の際にはフーバー大統領がロクな対策をやらなかった事から散々にこき下ろされ”フーバーモラトリアム”等と言われたようです。オバマ氏も実際上何もやれないでしょうから、ぼろかすに叩かれる事になります。民主党がオバマ大統領の時代に消滅しても不思議ではありません。ついでに、やっぱり黒人は駄目だ…と言う悪しき差別が復活しても不思議ではありません。
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目立たないけれどもアメリカ$を更に子安貝化させる他の要因と言うのもあります。
「$を発行する権限は誰が持っているのだ?」
と言うことが非常に曖昧になっているからです。$を発行する権限を持っている人や組織が多数になれば、彼らは自らの目先の利益のために$をどんどん製造するでしょう。
$を事実上発行する権限を散まく一つの方法は、信用創造です。昨今、あの投資家ソロス氏は”信用創造を含めて政府が管理する時代になるだろう”と言い始めている由。逆に言えば、信用創造と言うことはそもそも”貨幣を作り出す”事を政府以外が部分的にやっている事を意味しています。そして、アメリカがこの信用創造に対する規制が最も緩かったが故にかくも大量の”なんちゃって$”が生産されてしまったのでした。
しかも、先般指摘したように、欧州と日本は多分自国の様々な資産を担保としてでしょうが、$により金融業などに対して$融資を協調して行っています。各国が他国の通貨である$を製造し始めたのとさして変わりはありません。
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アメリカ$を更に子安貝化する他の要因として偽札を挙げても良いかも知れません。日本のお札を偽造する事はまず不可能でしょうが、アメリカ$紙幣はかなり容易だと言われ、偽札がかなり出回っていると言われています。さもありなん。
その偽札作りの筆頭と目されているのが、先般当のアメリカからテロ国家の指定を解除された北朝鮮だったりします。これって、もっと偽札をばんばん造ってアメリカ$の枢軸体制を実質的に維持して欲しい、と言う事なんでしょうか?
これは別に馬鹿げた推論ではありません。アメリカ$は只管印刷され、世界のあちこちで使われています。
「$が広く使われることによる価値の維持 VS $が大量に出回ることによる価値の下落」
を競走させているような状態です。$を使ってくれる事による価値の維持、つまり一種の広告宣伝として偽札をある程度許容すると言う戦略は決して成り立たないものでもないと思われます。だが、広告宣伝費もかけすぎると企業の屋台骨に響くものです。
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大体、信用創造によって生産されたお金って、リスクを考えると既に半分偽札のようなものであります。流通性とリスクの観点からすれば、
「織物(租庸調の調)やお米のような実物―黄金―貨幣―信用創造―子安貝―偽札」
と言うような階梯を考えることが出来そうです。今、$は正に子安貝の水準にあり、やがて偽札の水準に転落します。
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アメリカ$の価値を維持するための別の方法は、
「まだアメリカ国債を買ってくれる人たちの言うことを聞いて、アメリカ国債を黙って買って貰う」
です。更に買ってくれる国と言うと、中国。色々な情報があるようですが、目下中国がアメリカ国債を一番買ってくれる上得意のお客様のようで、流石に中東産油国はヤメにしたようです。中国は、アメリカ国債を担保に元(げん)を発行する事で国内経済を回している所がありますから、当面はアメリカ国債を購入することはワリに合うもののようです。
お客様の言うことは聞かなければなりませんね。例えば、日本はアメリカに最新鋭戦闘機のF-22を売ってくれと言っていますが、それは中国が甚だしく嫌っています。よって、アメリカは日本にF-22を決して売りません。F-35だって怪しいものです。他にも、色々な所でアメリカは国債を買ってくれる人たちの言うことを聞かなければならなくなります。
中国の懐も無尽蔵ではありますまい。何しろ、中国にはそろそろ限界が見えてきた安価な労働力以外にはこれと言う資源はないのですから。ですから、この方法もアメリカの底なしの贅沢を支えるものではありません。
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究極的な姿として、アメリカ$が完全に紙屑になる事もまぁないでしょう。
何だかだ言って、世界中で最も良く使われている貨幣が$です。ユーロ、ルーブル、円、元を知らない人も、アメリカ$は見て知っており、それが貨幣であることも勿論知っています。つまり、未だ十分に貨幣が流通していない地域において貨幣と言えば$。そのような地域や場面でアメリカ$は使われていくと言う事になるのでしょう、子安貝として。
また、アメリカと言う国そのものも広大で様々な資源に富み、農業等を行える土地がふんだんにあります。マトモに働くならば、随分働きがいのある国土だと言えます。マトモに辛抱強く働くならば、ですが。
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全体的なバランスは、アメリカ国債を筆頭とする$の価値が大幅に下落する方向にあります。これをマトモに戻すには、アメリカ政府が一方で大量の国債を発行して企業や家計の赤字を補填し、債券や株の相場を超強力に維持する必要があります。経済そのものが回らなければ、$の価値は維持できないからです。
当然、企業と家計の赤字は厳しく制限しなければなりません。アメリカ人はもっと質実な生活になり、全員が本当の意味で働かなければなりません。
同時に、当該国債をアメリカ国家そのものを細分化してでも償還する必要があります。例えば、日本には政府だけで推定200兆円以上のアメリカ国債が押しつけられていますが、それをチャラにする代わりにグァム・サイパン・ハワイを割譲する、とか。アメリカ国債を大量に保有している企業は、アメリカ本土の国有道路を得てそれを有料化して上がりをピンハネするとか。こうしてようやっと、アメリカの大量の赤字は全て償却されます。
だが、アメリカがこれらの事をするでしょうか? 周囲の日本人を観察しても、一度下らない贅沢を覚え、一度働かない生活に馴染み、一度様々な権力(※札束は権力です)の味をしめた人間は、滅多な事で改心はしないことが知れます。
かくして、$の価値は更に果てしなく低下し…、ある朝 崩壊の刻を迎えます。アメリカ国債の落札が連続して成立しなくなる、と言う瞬間が。


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