水と陸との関係
仏暦2551年09月15日 月曜日
些か旧聞ですが、4日付朝日新聞によれば、三重県多気町丹生の「大師の里・メダカ池」で、約30万株のホテイアオイの花が見ごろとの由。このホテイアオイ、休耕田で育てていて、所謂環境観光の客を誘致することを目当てとしたプロジェクトの一環との由。
え〜?であります。このホテイアオイと言う奴、富栄養化した湖沼や河川に滅多矢鱈に増える極めて厄介な水草ではないでしょうか?水の流れが悪化し、水面への日差しが激減するために、一帯がヘドロ化します。急流の多い日本では目立ちませんが、物凄く増えるので諸外国では河川航行に差し支える。繁茂させて水中の過剰栄養分を吸収させ、引き上げて飼料や肥料…と言うのはアイディアとしては良くある話のようですが、実際にはきちんと行われている例がないようです。何しろ、
「水からモノを引き上げるのは大変」
なんであります。単純に重機を入れるのは水中だから不可能。勿論、人間がそれをやるのはとんでもない重労働。要するに、このホテイアオイは赤潮・青潮の類と同じ、天然環境のガンと言ってもよろしい。それを、環境関連の観光の一つの目玉としてわざわざ植えるとは…。そこまで考えろ、と言うのならば、大したもんですが。
ところで、水は低きに流れるものであり、それと共にリンだのカルシウムだのの各種栄養分も川へ、湖沼へ、海へと流れ去ります。これを逆転させる回路がないとたかが人間が如きを含めて陸地は無生物の世界になってしまう訳で、勿論その回路はちゃんとある。魚や貝を食べて陸上に持ち運ぶ鳥類や哺乳類はあまた存在します。海から川をわざわざ遡上して川上でクマやキツネに食べられたりそこで死ぬサケマス類もあまた存在します。マイナーなところでは、ウミイグアナなんてのも。これら、世の中を成り立たせる大功労の働きと言うべきであります。くどいようですが、水からモノを引き上げるのは大変なのであります。
このような物質の大循環からすると、ホテイアオイと言うのはどうもあんまり世の中の役に立っていないんじゃないのか。本体はつるぺたのプラスチック風で、廣島はこれを食べる虫を見たことがありません。つまり、水から栄養分を吸収してそれを陸上に戻すと言う働きがない。川や湖沼を素早く埋め立てると言う働きはあるのでしょうが、土砂や水が低きに就くのと同じことをやっているだけでさして価値がない。
まぁ、ホテイアオイが有効そうな場面をあえて考えると、植生が乏しいまっ平らな砂漠のような所だと、素早く川を埋め立てて土壌を形成し、川を別の所に流してそこでまた川を素早く埋め立てて…と言う形で土壌形成に役立つと言う事はありそうにも思えます。なるほど、本種が南アメリカ原産だと言うのは納得です。アマゾンの密林を構築するにあたり、大昔はホテイアオイが抜群の働きをしたのかも知れません。だが、少なくとも日本のような所では働きがいはないと言うもんでしょう。と言うよりも、人間がやった富栄養化と言う些かの愚行を補うように俺たちは出来ていない〜と。
そう言えば、トキは絶滅寸前と言う事で日本や中国では珍重されますが、これも水と陸の間の関係においてはどうもホテイアオイ風のようです。サギの類だと魚や貝等を食らって山のねぐらに行き、糞や死体を山にまき散らし、山を肥やしてくれます。山が肥えれば、次は平地が肥えます。ところが朱鷺は田んぼを目茶苦茶にひっかき回すくせに営巣がそのまま田んぼや湖沼脇なのだそうな。これでは栄養は湖沼あたりをうろうろするだけです。田んぼで生きてきた日本や南部中国で朱鷺が絶滅しかかっているのは、けだし当然と言うべきでしょう。逆に、エジプトあたりでは朱鷺の仲間は健在です。彼の地では栄養分はナイル川の遙か上流から来ますし、田んぼもありませんから。
これに関連してついでに言えば、都市部と異なり田舎ではカラスはそこらへんから食べ物を拾っては山のてっぺんのねぐらに帰り、糞や死体で山を肥やしてくれます。日本ではカラスが神の類として古来あがめられていますが、山肥やしがきちんと認識されていたものでしょうか。
話は大きく替わり、デスモスチルスと言う2800万年〜1300万年前の日本から北米の太平洋側の海岸に生息していた哺乳類がいました。非常に謎の多い動物と言われています。明らかに草食性ではあるが珍妙な形状の歯、生息域は海岸、200kgもある巨体、足が大地を踏ん張らないでワニよろしく体躯の両側に出ているのに足や身体の形がアザラシやオットセイのようには水生に特化していない…。これらを見ると、
「デスモスチルスは海の中に大方潜みつつ、海岸に生えている陸上植物、河口に落ちた植物体またはマングローブ様の植生を専ら食べていたのではないのか」
と言う気がします。シャチやサメが入りにくい遠浅の海でこれだけの巨体であれば海中から攻撃する者はありません。餌は海藻もあったかも知れないが、大抵は足りなかったでしょう。削っていない鉛筆を束ねたような歯は、海岸に生える頑丈な植物を噛み潰すのに相応しいように思えます。陸からの攻撃があったらばちょこまか海に逃げれば良い。で、海→陸の栄養分運搬の営みに反することですからあまり上手く行かず絶滅、つまり海岸付近の陸上植物を食い荒らしたらばもうお仕舞い。そのニッチを受け継ぐ者もいなかった、と言う仮説はどうでしょう?胃あたりに陸上植物花粉が大量に残っている化石でも発見されれば、一発なんですが。
と言うような事を考えていてふと気がついた事。この低きに就くに逆らって生き物ワールドを維持する堂々たる営みにあからさまに逆らうことを現在もやっている動物が一つだけいます。それは、ワニ。この連中は湖沼に潜んで折角大きく育った陸上動物にばっくり食らいつき、水の中に引きずり込んで食べてしまいます。主竜類の仲間である鳥類の非常に多くは魚や貝やらを食べて栄養を陸上に返す大仕事に勤しんでいると言うのに、あんたらと来た日には…。
ワニが陰険な顔をしているように見えるのは、別に人間ふぜいの僻目ではないのだ、と言っておきましょう。


Comments
こんにちは。情報ありがとうございました。
昨今、色々見て色々考えているのですが、要するにこういう方々は”何も考えていない”のだろうと思います。欲望を充足させる方法をその場で思いついてそれ以上検討せずに直ちにやってみる。その繰り返しで生きている人というのは実は非常に多いのだろうと思われます。
ホテイアオイの場合は、ホテイアオイで村興しと言うことをやってみたくなっただけですよ。それで補助金も出るのだろうし、暇人が見に来るのもちょぼちょぼとあろうし、こんな風にマスコミにも乗る。考え直す機会は永久に来ませんから。
Posted by: 廣島和佳 | 09/16/2008 at 06:06 AM
ホテイアオイは三重県多気町だけじゃないようですね。
http://www.city.kazo.lg.jp/hp/page000003800/hpg000003798.htm
http://www.city.kashihara.nara.jp/hoteiaoi/hoteiaoi.html
「いいこと」(この場合「町おこし」)をしようとする人は、行為に問題性があっても許されるべきだと思いこむ傾向があるように思います。
Posted by: ami | 09/15/2008 at 08:05 AM